秋の七草

  このところの恵みの雨で、キキョウが咲き始めました。裏門からの通りでも目につくので、お気付きのことでしょう。植物をあまり知らない人でもキキョウは直ぐ分かるのではありませんか?

オミナエシも蕾を持ち始めています。

 

エッ、秋の七草ってこんなに早かったかしら・・・
今までの植物画像の撮影日をみてみると、撮影日時で早いのは6月。


これじゃぁ夏の七草だわ!!


でもちょっと待って・・・此処は千葉。
以前行った信州ではどうだったかしら。 霧ヶ峰では、8月に咲いていたのだから、自然界ではやはり秋の植物といえます。

 

私たちが秋を感じるのは、立秋を過ぎてからでょう。

2015年の立秋は8月8日です。立秋の後が開花時期であるなら、山上憶良の詠んだ七種は、やはり秋の植物と言えるのだと、自分なりに納得しました。

 

 皆様は既にご存知のことと思いますが、秋の七草といわれるのは次の七種です。

 万葉集巻8-1583で、山上憶良が次のように詠んでいます。

 

「秋の野に  咲きたる花を ゆびおりかき数ふれば  七種(ななくさ)の花       
        萩の花  尾花葛花  なでしこの花  女郎花  また藤袴  朝貌(あさがほ)の花」

 

 以来秋の七草といえば、この二首の歌のとおりに選定されています。 朝貌については、薬用として導入されたムクゲやアサガオではないのかと諸説ありますが、在来種である桔梗のことを指すようになったのだと思います。

 

七草と書くより、憶良の歌のとおり、“七種”と書いて“ななくさ”と読む方がふさわしいと思うのは、私だけかしら・・・・・

 この中では、“春の七草”のように食用となる植物はクズとキキョウの二つです。それより冬に向かい体調を整える生薬として使える植物が入れられています。風邪にはお馴染みの葛根湯や葛湯、桔梗は痰を伴う咳や化膿性の腫れ物によいとされ、女郎花は、生薬名を瞿麦子(くばくし)、敗醤根(はいしょうこん)として利尿、解毒、はれものに使われています。

 

 万葉人は、冬枯れの野菜不足の時期に、萌えだしたばかりの野草を摘み集めて、“春の七草”として栄養を摂っていたのでしょう。さぞかし春の到来を待ち望んでいたと思われます。

 一方、“秋の七草” には、冬期到来に向けて体調を管理するための植物を主としてあり、万葉人はこれらの植物の力を、経験からよく知っていたのでしよう。

 

 私が気になった開花時期ですが、山地と平地での差は当然あるのでしょうが、近年、開花時期が早まっていると感じるのには、園芸業界で開花時期を早くなるように改良されているのではないかと思えるのですが・・・・・どうなのでしょうか。

他より早くより大きな花を、新しい色を・・・と人間の欲望は際限ありませんから、それに応えようとする業界や研究者は、ご苦労なことです。

 

 蛇足ですが、「夏の七草」というのがあるで、ご紹介しておきましょう。

明治生まれ、東京農学校出身で貴族院議員をつとめた勧修寺 経雄(かしゅうじ つねお)伯爵が「夏の七草」として詠んだ短歌があります。

 

   涼しさは よし い  おもだか ひつじぐさ かわほね さぎそうの花

 

 これでは、ちょっと判読しにくいですね。分かり易く書くとこうなります。

   涼しさは蘆、藺草、沢潟、未草、河骨、鷺草の花  

いずれも水辺にあって、涼しさを演出してくれる植物ですね。


それはさておき “秋の七草の効用” は,以下のデータで、ご覧ください。  

ハギ(ヤマハギ)   Lespedeza bicolor var.japonica   マメ科 

 七草に入っていますが、草本ではなく木本です。葉は互生し、3出複葉。葉の形は幅広の楕円形。花期は7月から9月。枝の先の方にある小枝の葉の付け根のところから紅紫色の小花を総状花序に多数つけます。葉の形は楕円形で、小さい葉が3枚つきます、(三出複葉)豆果は5mmほどで種が一個入っています。ハギと云えば、大抵はヤマハギ、ミヤギノハギ、マルバハギの総称です。



     薬用部分:根茎

        薬効:民間薬賭して⇒婦人病のめまい、のぼせに。


ススキ   Miscanthus sinensi         イネ科

 日本各地の山野や河原で群落をなしていましたが、最近ではあまり見られなくなっています。茎は真っすぐ伸び、葉は線形で尖り、秋に茎の先に20~30cmの長さの黄褐色か紫褐色の花穂をつけ、この花穂がやがて白色になり花のように見えるのが、尾花の名の由来です。別名を茅(かや)といい、昔は屋根葺き、炭俵、すだれなどの材にしたり、茎葉は家畜の飼料にもしていました。色彩に乏しいススキですが、万葉集では多く詠まれ、秋の風物として親しまれていたことが窺えます。

薬効はなく、専ら生活用品として利用されてきました。



クズ    Pueraria lobata       マメ科

 茎は木質化し蔓は匍匐しながら伸びて10mにもな婁蔓性植物です。葉は互生し、3出葉状複葉で、頂小葉は丸みを帯びたひし形で先は尖っています。花期は7月から9月。紅紫色の小花を総状花序に密生し、大変甘い香りがします。花は食用に、茎からは繊維を採り衣服に利用、根は薬用に出来、全てを利用できる大変有用な植物です。
 1936年農務省土壌保全局が工事現場の土砂流出を防ぐ目的で、葛を植えることを奨励し、アメリカ・テネシー川開発計画では、葛の地位はを不動のものとなりましたが、あまりの繁殖力に、1970米農務省が『葛は雑草』と宣言し、葛はアメリカではその地位を完全に失い、今では “葛は屑” とまで云われているそうです。



      薬用部分⇒根  

      生薬名⇒葛根(かっこん)

      薬効⇒・葛根は発汗、解熱、鎮痙薬として、熱性病、感冒、首・

          背・肩こりなどに。

              ・葛花(かっか)は、眩暈や悪寒に。


ナデシコ   Dianthus auperbus   ナデシコ科

ヤマトナデシコ又はカワラナデシコと呼ばれます。日本各地の山野に自生する多年草です。葉は対生し、葉先は細く尖っています。花期は7月から9月に、茎の頂きに淡紅色の花をつけます。野生のナデシコも、今では滅多に見られなくなってきています。植物もさりながら、女性を示す ヤマトナデシコ” の言葉も,聞かれなくなって久しい・・・ですよね。



     薬用部分⇒全草・種子   

     生薬名⇒・全草:瞿麦(くばく)

         ・種子:瞿麦子(くばくし)

     薬効⇒サポニンを含んでいることは知られていますが、薬効との関係は

        不明です。

        むくみの時の利尿、通経薬として月経不順に。


オミナエシ  Patrinia scabiosaeflolia    オミナエシ科 

 日当たりの良い山野に生える多年草です。葉は対生し、羽状に裂けたよう名形です。茎の上部に黄色く小さい花を散る房花序につけます。花は美しいのですが、特有の醤油の腐った臭い匂いがします。雑草が生い茂る場所では生きてゆけないため、最近では自生には滅多に見ることが出来なくなっていています。千葉県では準絶滅危惧種になっています。



     薬用部分⇒根・全草
     生薬名⇒・根:敗醤根(はいしょうこん)

         ・全草:敗醤草(はいしょうそう)
     薬効⇒腫れ物、解毒、利尿に。


フジバカマ   Eupatorium fortune     キク科     絶滅危惧種

 古い時代に中国から渡来した帰化植物と考えられています。川辺の土手や傾斜地に生えますが、最近では生息地域が減り、自生はほとんど見ることは出来なくなっています。生之時は匂いはありませんが、生乾きの時や乾燥した葉にはクマリンの良い香りがします。平安時代には香草として女性の洗髪や沐浴に使っていたそうです。自分で栽培したフジバカマ全草を乾燥させて、刻み袋に入れて入浴剤にしてみれば、平安の女性を偲べるかもしれません。



     薬用部分⇒全草
     生薬名⇒蘭草(らんそう)
     薬効⇒皮膚の痒みに。アトピー対策に。


キキョウ   Platycodon grandiflorum    キキョウ科   絶滅危惧種

 日当たりの良い、やや乾きぎみの場所に生える多年草ですが、自生のものは見られなくなっています。根は多肉質で、黄白色の球根のようです。茎は直立し、草丈は70cmほど。柄のない葉は互生し、縁には鋭い鋸歯があります。
 観賞ばかりでなく食用としても使え、若い芽は熱湯で茹でてお浸しや天ぷら、汁の実にしたり、花は酢を落とした湯で茹て、甘酢和えにして食べられます。花を摘んだときにじみ出る乳汁を拭き取って、3倍量のドライジンに漬けると、澄んだ淡青紫色の即席のリキュールが出来ます。


      薬用部分⇒根

      生薬名⇒桔梗根(ききょうこん)

           薬効⇒鎮静、鎮痛解毒作用があり、抗炎症、鎮咳、血圧オウカ作用も

                みとめられ、去痰、鎮咳薬として、痰、気管支炎、咽頭炎に。

 

                                   戻る