エビスグサ・ハブソウ・カワラケツメイ

 近くの貸し農園の傍を通ったとき、作業している方から「ハブソウは要りませんか?」と声をかけられました。よく見るとハブソウではなくてエビスグサが、恥ずかしげに下向きの黄色い花をつけ、莢も下げています。その莢が茶色く色づけば収穫です。

 

このようにエビスグサをハブソウと間違えられることが多いようです。ちょっと目には見分け難いうえ、エビスグサをお茶にすると“ハブ茶”とよばれているので、混同しているのでしょう。

 

栽培するのであれば、違いを知って見分けていただければと思い、今回は健康茶として利用されているエビスグサとハブソウ、そして同じようにお茶とされているカワラケツメイを取り上げます。

 

エビスグサ

北米原産の一年草で、江戸時代に中国から渡来しました。異国人を示す胡(エビス)の文字を使い、特定の地域を示すのではなく単に外来種であるとしてエビスグサとなったのでしょう。

草丈は,11.5m位になり,茎ほぼ直立し、葉は左右3対の羽状葉で、先端は幅広の倒卵形、長さは3cm程です。花は茎頂で葉腋から伸びる花柄に黄色の五弁花をつけます。熟すにつれ莢は弓状になり、中には30粒ほどの種子が、一列に並んでいます。下葉が枯れる9月下旬以降、全草を抜いて天日でよく乾燥し、乾燥後打ち叩けば種子が容易に採れます。それを生薬名で決明子(けつめいし)といいます。

決明とは便通を整え、目の周りの充血をとる事によって視力が回復するということに依ります。

  採取した種子は、焙じてから使います。昔はどこの家庭にも「ほうろく」があったと思いますが、今は私方にも「ほうろく」はありません。それに代わる方法では、フライパンにアルミホイルを敷き、そこで種子を入れて弱火で煎ります。暫くするとパチパチと弾ける音がし始めます。強火では焦げてしまうので、気長に炒ってください。香ばしい匂いがしてくる頃で,丁度良いようです。

さめたら、ビンか缶に入れて保存します。

 

 用い方は、お茶を淹れる要領で淹れ、少し蒸らしてから漉したものを「ハブ茶」といい、お茶代わりに飲用します。上の写真・右は、決明子小さじ2杯をカップに入れて熱湯を注ぎ,5分蒸らしたハブ茶です。もう一つの方法は、水600cc、決明子大さじ1杯(10グラム)を鍋で煎じる方法です。沸騰したら弱火にして20~30分ほど煎じますが、煮出しすぎは成分を壊すそうですから、これくらいを目安に煎じればよいでしょう。


 本来「ハブ茶」はハブソウで作りますが、エビスグサより収穫量が少ないうえ目減りするので、現在「ハブ茶」として市販されているほとんどは、エビスグサが使われています。

 

ハブソウ

最近では、余り見かけなくなりました。

 熱帯アジア原産の一年草です。日本には江戸時代に渡来しましたが、しばしばエビスグサと混同されています。草丈は50150cmで無毛、葉は偶数花状複葉で、エビスグサとよく似ていますが葉の先端は尖っています。花は78月頃、茎の上部から柄を出して数個の黄色い 5弁花をつけます。果実の莢は、エビスグサより短く莢の中には扁平卵形の種子が 2列に並んでいます。 

種子を採取し乾燥させたものを生薬では望江南(ぼうこうなん)と呼び、健胃、緩下に,お茶として使いますが、そのお茶を[ハブ茶]と云います。

 

しかし現在では、容易に栽培できるエビスグサのお茶を「ハブ茶」と呼ばれているので、名前が混同されているのです。

 

 この場合のハブとは蝮(まむし)のことで、沖縄の毒蛇ハブとは、関係はありません。蝮に噛まれたとき、この葉を揉んで、その汁をすり込めば良くなったというのでこの名前が付きましたが、実際には薬理作用は無いそうです。

 

 しかし、蚊、アブ、ブヨ等に刺された痒みには、生葉の汁をすり込めば痒みは治まるそうです。

 

残念ですが、当園にはありません。エビスグサと比較するため、当園でも栽培したいと種の入手を検討しようと思っています。

 

カワラケツメイ

 本州、四国、九州の日当たりの良い河原や野原に自生する一年草です。草丈は、30~60cmほどです。根元から枝分かれし,下部は木質で無毛。茎の内部は中空ではありません。

 葉は互生、偶数羽状複葉で不均衡に多数の小葉をつけます。葉の近くには蜜線があり、ツマグロキチョウの食草になっています。

カワラケツメイは在来種ですが、河川改修や外来種に圧されて、今では希少となっています。それにつれてツマグロキチョウも減少しているそうです。


花は8~10月頃葉の脇の小枝に1~2個の黄色い小花をつけます。果実は 平たい34cm程の莢果を上向きにつけます。

8~9月頃、全草を刈り取り、洗ってよく乾2cmくらいに切って乾燥させたものを生薬では 山偏豆(さんぺんず)といいます。薬理は未詳ですが、利尿、強壮、鎮咳などに効果があるとされています。

 

苅る時期は、果実が未熟の頃に全草を採って、刻んで乾燥させて、昔からお茶の代用として,「まめ茶」、「はま茶」と呼ばれていました。また、弘法大師が全国行脚の際に普及させたので「弘法茶」とも呼ばれます。民間薬としてというより、お茶代わりに利用していたのだろうと思います。

 

 そういえば、小学校1年の昭和23年頃、幼馴染みのお母さんに連れられてお茶にする植物を採りに行ったことを思い出しました。“あれは何という植物だったのか”と、いくら考えても分からないのですが、おそらくこのカワラケツメイだったのでしょう。民間薬としてよりもお茶代わりとして飲まれていたのだと思います。しかしその方は亡くなっているので、今はもう確かめようがありません。

 

 よく似た植物にクサネムがありますが、カワラケツメイの莢は上向きなのに対してクサネムの方は垂れ下がるので見分けられます。

 

クサネムについては、こちらに詳細が載っていますので、ご参考までに。

クサネムの近縁種、アメリカクサネムは何故か当園にも生えていました。

 

 

 

 

エビスグサ

ハブソウ

カワラケツメイ

学  名

Senna obtusifolia

Senna occidentalis

Chamaecrista nomame

科  名

マメ科

マメ科

マメ科

生 薬 名

決明子(けつめいし)

望江南(ぼうこうなん)

山偏豆(さんぺんず)

使用部分

種子⇒10月頃種子を採取し、日干しします。

全草⇒19月頃、種を採り、日干しします。

全草⇒莢果が未熟の頃に、全草を採り、刻んで日干しします。

使 用 法

高血圧予防、健康増進に⇒1日量10g(およそ大さじ1杯)を水600ccで煎じてお茶代わりに飲用します。

●健康茶としては、同量の

薏苡仁(ハトムギ種子の生薬名・よくいにん)を加え、連用すると良いでしょう。

便秘、整腸、腹部膨満感に⇒1日量10gを水600ccで煎じて、3回に分けて食前もしくは食後に服用します。

健康、健胃に⇒一日量10gを煎じてお茶代わりに飲用します。

●アブ、ブヨ、蚊などの虫刺され⇒生葉の汁をつけます

 

利尿、健康茶に⇒一日10gを、水500cc程で沸騰させて,お茶代わりに飲用します。

効  能

便秘、高血圧予防、神経痛。

健康茶に。

健胃、緩下、毒虫されに。

利尿、健康茶に。

成  分

緩下作用を示すクリソファノール、フィスチオン、オブッシフォリン等。

全草にエモジン、フィスチオン、クリソファノール、クエルセチン等。

全草に少量のアントラキノン類、フラボノール類。

種子には脂肪油、ベータ・シトステロール等。

                                                                                                       戻る