ナンテン

 挿し木したナンテンが無事活着し、一年経過したら、赤実と白実をつけました。我が家のナンテンを数本伐って、そのまま土に挿しただけで、放置していたのによくぞ・・・と植物の生命力に、改めて感心します。

 ナンテンと聞いて思い浮かべるのは、祝い事の時のお赤飯にあしらう葉でしょう。この風習は他所へ配るので、「ナンテンの葉が毒を消してくれますから食中毒の心配はご無用ですよ」という意味があるのです。 

昔の人は、ナンテンの葉には“食べ物を腐敗させない何かがある”のだと経験から知っていたのですね。 

現在ではナンテンの葉にはナンジニンという成分が含まれていて、葉を置いて熱いうちに蓋をすれば、熱と水分で解毒作用のあるチアン水素が微量に発生し、腐敗抑制するということが解明されていますが、成分など知らなかったはずなのに、そのことが分かっていたのですから、先人の知恵はたいしたものです。チアン水素は猛毒ですが、ナンテンに含まれているのは、極微量なので、使用しても危険は全く無いといわれています。

 

ナンテンは、メギ科の常緑低木です。聞き慣れない科名ですが、同じ科にはイカリソウ、タツタソウ、ヒイラギナンテンやアメリカハッカクレン(ポドフィラム)等があり、いずれも薬用として利用されています。 

ナンテンの薬用部分は、果実、葉、茎、根いずれも用いられますが、よく知られているのは果実[生薬名は南天実(なんてんじつ)]です。ナンテンには赤実と白実があります。俗にシロミナンテンの方が効き目があると云われますが、赤実も白実も効き目には全く差は無いそうです。上の写真をご覧ください。赤実の方は秋になると葉は紅葉していますが、白実の方は秋になっても葉は緑色のままです。幹の切り口は、白実は白っぽく、赤実の切り口は黄色・・・と訊いたので、切ってみましたが、差は見られませんでした。切った枝が未だ細かったからでしょうか。

  葉は南天竹葉(なんてんちくよう)といい、葉には、果実と同じ効き目があり民間薬では解毒薬として用いられています。昔はお手洗いの近くにはナンテンがよく植えられていました。手を洗う水がないときにはナンテンの葉で手を浄めるためだったそうです。私が子供の頃は、軒下に吊した右図のような手水(ちょうず)器の下を押し上げて水を出して手洗いをしていたのです。水道をひねれば直ぐ水が出てくる現代に育った、お若い方には想像もつかないでしょう。現在では、葉には抗菌力のあるアルカロイドの一種のベルベリンを含有していることも医学的に証明されているので、“南天手水(なんてんちょうず)”も一応理にかなっていたようですね。
 茎は咳止めや強壮剤に、根は頭痛、リウマチ、筋肉痛などの痛み止めに用いられます。

 ナンテンと聞いて思い浮かべるのは、赤い実、お赤飯に添える葉や のど飴くらいでしょうが、このように植物全体がそれぞれ薬効をもっていることを知っておけば、喉が痛い、咳が出る等の軽度な不調のセルフメディケーションに役に立つのではないでしょうか。
                   
 ナンテンは昔から「難を転じて福となす」に通じる縁起の良い 木として庭木に植えられてきました。 江戸時代に著された『和漢三才図会』(わかんさんさいずえ)には、“南天を庭に植えれば火災を避けられる”と書かれていて、火災除けとして玄関前に植えられるようになったそうです。

 縁起が良い、災難を転ずる、火災除け等にあやかったのでしょうか、紋の図案もありますから愛でられていたと思われます。

 

 材としての利用もあり、京都の金閣寺には、南天の床柱があります。私は何度か訪れたのですが、全く記憶にないのです。今一度確認したいと思っても,京都は遠くて叶いません。

 近くでは東京、柴又の帝釈天、題経寺にも「南天の床柱」といわれるものがあると聞いて、見に行ってきました。柴又なら、直ぐ行けますからね。                  今まで見た南天で、一番太くても径20mm程度ですから、柱になるってどういう事かしら・・・と、信じられなかったのです。右は写真は帝釈天の題経寺の

「日本一 大南天の床柱」です。            
滋賀県伊吹山下、坂田郡の旧家に生えていたのを移したものですが、受付の方にお訊きすると「一番太い根元の辺りを測ってみたら30cmだった」そうです。そしてこの南天は、“樹齢1,500年で、日本で一番太いと、故牧野富太郎博士の折り紙付き”という説明でした。それが、まるで床から生えて、天井を突き抜けているかのように設えてあります。部屋には入れず、間近で見ることは適わなかったのは残念でした。

 床柱というより、床柱の前に飾られたオブジェといった感じに見えましたが、これだけの太さであれば希少価値は充分あるのでしょう。

 

学  名:Nandina domestica

科  名:メギ科

生 薬 名:南天実(ナンテンジツ) 

利用部位:果実、葉、茎、根

薬  効 : 滋養強壮  せき・たん  ぜんそく(気管支ぜんそく)  百日ぜき  黄疸  頭痛、リューマチ  虫さされ に。 

 用  途:鎮咳に⇒・乾燥した実を、一日量510g500ccの水で半量になるま

                    で煎じて、3回に分けて食前に服用します。 

         子供の百日咳には、量を半分に減らして、蜂蜜や水飴を加えると野見やすくなります。

          ※南天実は作用が強いので量は多くならないよう注意して

                      下さい。 

(鎮咳作用をもつドメスチンは、多量に摂取すると知  覚や運動神経の麻痺を引き起こすため)、

・葉も咳止めに。一日量1015gを煎じて服用します。

     解毒に⇒・赤飯の上に、葉を載せます。殺菌作用があり、腐敗を抑制

                    します。

         ・魚を煮るとき⇒生葉を千切って入れると保存がききます。

     蜂に刺された時⇒生葉を揉んで汁をつければ痛み止めになります。

     頭痛、筋肉疲労の痛み止めに⇒生の根を一日量3050gを煎じて服用します。                          

 成  分:ナンテンの葉に含まれる成分としてアルカロイドのドメスチン、ナン

     ジニン、マグノフロリン、ビタミンCなど。

                                 

*上記で述べたよう に葉に含まれるナンジニンは熱と水分によってチアン水素を発生させますが、ナンテン葉には少量しか含まれておらず、人体には影響はありません。とはいえ量服用は非常に危険ですから、使用に際しては量は厳守してください。

 

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