タイム

 今が見頃のイブキジャコウソウです。

ハーブでは、クリーピングタイムと呼ばれます。手に触れると清々しい香りが辺りに漂います。生薬名は、百里先まで香りが漂うということから[百里香」(ヒャクリコウ)といいます。百里は約3393kmですから、まさかそこまでは匂わないでしょうが、この植物の香りの強さを言い表して、この名前がつけられたのでしょう。

 

近くによって、葉を揉んでみてください。百里香が、決して大袈裟な名前ではないと納得されるでしょう。

 

イブキジャコウソウは、日本各地の日当たりたりの良い岩地に生えていますが、織田信長が薬草園を設けた滋賀県の伊吹山に多く自生があり、雄のジャコウジカから採る高価な動物性香料の麝香(じゃこう)に似た香りがすることから、伊吹麝香草と呼ばれます。
 細い茎はよく分枝し、節から根を出して這うように拡がり、草のように見えますが小低木です。茎の上部は斜上し、草丈は15cm 程。1cm 程の小さい葉は互生し、6~8月、小さなピンク色の花をつけます。

 日本産のイブキジャコウソウは、中国原産の変種と考えられていますが、日本に自生する唯一の種類なので[日本のタイム]と呼ばれています。しかし利用は民間薬として用いられる程度です。

  

一般に、[タイム]と呼ばれるのは、ヨーロッパ原産のタチジャコウソウを指します。名前のように立つタイプです。英名ではコモンタイムCommon thyme、ガーデンタイムGarden thymeまたはフレンチタイムFrench thyme などと呼ばれています。呼び名がこんなにあると、それぞれが別の植物のように思えて間違いやすいのですが、この三つの名前は、同じ植物のことを指しています。
タイムには種類が多くあって、よく分からないと度々ききますので、タイプ別の表にしてみました。
 

 この2つのタイプは同じように、抗菌、防腐、血行促進、消化促進、腸内ガスを軽減するなどの作用があります。花と葉を蒸留して採る精油は、外用薬として鬱病、風邪、頭痛、筋肉痛や呼吸器疾患に用いられ、水虫にも良いとされます。冷めたティーはうがい薬として使えます。

 

 爽やかな芳香とほろ苦い風味があり、香味料としては茎を取り除いて葉を使います。長時間煮込んでも香りが失われないので、肉・魚介料理、煮込みのブーケガルニ(薫草の束)にします。パンやバターに練り込んだり、油や酢に漬け込んで香りを浸出させたハーブオイルやハーブビネガーに入れて香り付けに用い、用途は多様です。風味が強いので量は控えめにします。ティーには生葉でも乾燥葉でも使えます。

 

 料理以外にはリースやポプリなどのクラフトにも利用されます。乾燥させても香りは十分残るので、保存にも適してます。

 

 ヨーロッパでは古くから利用されているだけに、神話や文学作品に多く登場します。ギリシア神話では絶世の美女といわれるスパルタ王の妻ヘレナの涙から生まれた草とされていますし、シェークスピアの「真夏の夜の夢」ではタイムの生い茂る草むらが妖精の女王の住まう場所として登場しますが、あの芳香は妖精達を魅了したのでしょうか。

妖精でなくても、タイムの薫る褥(しとね)に憧れませんか。

原産地:イブキジャコウソウ:日本原産

    ヨウシュイブキジャコウソウ:ヨーロッパ原産

形 態:常緑性の低木で、枝は斜め上方向に伸びていき先端が立ち上がります。株元から細かく枝分かれして、こんもりと茂ります。葉は5mmほどで細かく、枝に密生します。繁殖力は旺盛で、枝の節が地面に付くとそこから根を出します。春~初夏にピンク色の小さな花を枝先にたくさん咲かせます。開花時は花のクッションのようでかわいらしいです。    す。

学 名:イブキジャコウソウ:Thymus quinquecostatus

    タチジャコウソウ:Thymus vulgaris

科 名:シソ科

生薬名:百里香 ヒャクリコウ

利用部位:全草

     百里香⇒開花時に地上部の全草を採取し、土を落として陰干しします。

     葉⇒必要に応じて採取します。

利用法:双方共に同じように用います。

民間では⇒浸剤で・・・胃のむかつき、消化不良、咳止め、うがいに。

     チンキ剤・・・下痢、去痰に。

     精油・・・●部の塗布剤に。マッサージオイルとして(10滴をアーモンドオイル又はヒマワリオイル20mlに溶かして、胸部に塗布します)

         ●虫刺され・外傷に(10滴を水20mlに溶かして外用します)

効 能:殺菌性の去痰、抗痙攣、殺菌、抗菌、収斂、利尿、鎮咳、抗生物質、創傷

    治癒、外用では局所結構促進。                                   

成 分:揮発成分、苦味物質、サポニン、トリテルペン、フラボノイド、

    タンニン。

 

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