ナツメ

   昨夏、園の移動で薬草の植栽場所を確保するため、ナツメやカキ、カリンなどの果樹の強い剪定をしました。その成果なのでしょうか今年のナツメは、近年になく大豊作で重そうに枝を垂れています。

 「桃、栗3年、杏は4年、梨は5年、棗(なつめ)は、その年(とし)金になる」と言われるように、栽培するには有利な果樹なのでしょう。改良されて多くの品種があり、一粒が50gほど、糖度が35度もある品種もあるそうです。

上図はナツメZiziphus jujube で、クロウメモドキ科の落葉小高木です。ヨーロッパ南部からアジア西南部の原産で、日本には奈良時代以前に中国から渡来したようです。

 葉は、小枝に互生して葉柄は短く、少し平面的に並び羽状複葉のように見えます、卵形か長卵形で長さは2~4cmです。葉基は鈍形で、少し左右非対称です。質はやや堅く光沢があり、葉には3主脈があり辺縁には鈍鋸歯があります。 花は、4~5月ころに葉のわきに淡黄色の小さな花を数個ずつつけます。 果実は核果で楕円形で、はじめは淡緑色ですが、熟すと暗赤色になります。茶器の棗は、果実の形に似ている事からの命名と言われています。

 

暗紅色に熟した果実は、生で食べたり、甘味を加えて煮て食べたりします。ナツメ茶にするため大棗を買いにお茶の専門店に行った時のことですが、「ドライフル-ツになった物ならありますよ」と店員さんが出してくれたのは、ナツメより一回りは大きい実なのに、56個入ったパックが380円。これは安い!と思いながらも確認しないで即購入。帰宅して袋の裏をよく読んだら大棗ではなくて、デ-ツでした。デ-ツは、ナツメではなくナツメヤシの実です。安い!と即決した私の失敗談です。もし購入される折は、ご確認されますよう・・・老婆心ながら。

 

生薬にするには、日干しで乾燥してから蒸して、再度日干にしたものを生薬・大棗とします。大棗は漢方では、通経や利尿、関節炎や腰痛などに用いられますが、薬用としては単味で用いるより漢方処方に配剤される方が多いそうです。

  『正倉院文書』(771)には、四季折々の果物が記載されています(*1)。ナツメは秋の味覚として桃、生柿(なまがき)、橘子(柑橘系)、栗、ノブドウ、瓜(マクワウリ)、郁子(ムベ)、甘子(コウジ)等と共に記載されており、当時多量に取引されていた記録もあるそうです。

 

貯蔵技術が無かった時代ですから、折々の物をその時期に採取し、味を楽しんでいたことでしょう。 

 

江戸時代後期に伊勢貞丈(いせ さだたけ)が、子孫への古書案内、故実研究の参考書として書いたものが、後年岡田光大(おかだみつひろ)が校訂し『貞丈雑記』として刊行されました。その中の巻之六「飲食部」には【菓子のことは、いにしえ菓子というのは今の蒸し菓子・干菓子の類を云うにはあらず。多くはくだ物を菓子と云うなり】とあるので、『正倉院文書』に書かれている折々の味覚は、私達が考える果物とは違った意味合いだったようです。

 

 古代と云えば鑑真和上を日本へお連れした東大寺僧 普照(ふしょう)は、旅をする人の飢えを癒すために、京外の街道に柑橘,ナツメ,ナシ,カキ,クリを5果として果樹を植えることを提言(*2)したのを受け、「畿内七道諸国の駅路両辺、遍(あま)ねく菓樹を種(う)えるべし」という命令が出ています。(*3)

 

コンビニエンスな現代とは大違いの時代ですから、旅人はこれらの果樹に助けられ、果実を食べ命をつなげた人は多かったことでしょう。

ナツメは生食すると、食感はまるでリンゴです。古代の人は其れをどう感じ、なんと表現したのかしらと想像を巡らせます。 

 

(*1)『正倉院文書』に記載の、前述の秋以外の味覚

     春の味覚           梅子(うめ)  枇杷子(びわ)

     夏の味覚       李子(すもも) 梨子(なし)

     冬の味覚            甘子(こうじ) 胡桃(くるみ)

 

(*2)<東大寺僧普照(ふしょう)の提言> 

天平宝字3759)年、「道路、百姓(ひゃくせい)の来去(らいきょ・

往来)絶えず。樹、その傍(かたわ)らに在(あ)らば、疲乏(ひぼ

う)を息(やす)むに足る。夏は則(すなわ)ち蔭に就(つ)きて熱を

避け、飢えれば則ち子(し・果実)を摘みて之(これ)を噉(くら)

う。伏して願わくは、城外道路の両辺、菓子の樹木を栽種(さいしゅ)

せんことを。」
(*3) 平安時代に編纂された法令集の『類聚三代格』(るいじゅさんだい

きゃく)巻7 

学  名:Ziziphus jujube

科  名:クロウメモドキ科 
利用部位:果実、

     木材⇒
生 薬 名 :大棗(たいそう)
作   用: 抗酸化作用、整腸作用、血液凝固抑制作用、利尿作用。
適  応:通経や利尿、関節炎や腰痛などに.
使  用  法: ・滋養強壮に⇒大棗酒がよい。大棗は細かく切って壜に入れ、45度のホ

            ワイトリカ-1.8㍑に、大棗300g、グラニュ-糖150g

            を加え、2ヶ月以上冷暗所に置いてから、布で漉しま

            す。一日30ccを限度に、就寝前に飲用します。

     ・ナツメ茶に⇒乾燥棗を20個~30個ほど一晩水でもどします。

          それに、はちみつ(大2)、水(2C)、ラム酒(大2)を加

          え火にかけ、沸騰したら弱火にして30程煮るとナツメ茶にな

          ります。

     ・胃痙攣や子宮痙攣などの鎮痛に⇒大棗6g、甘草(かんぞう)5g

                    小麦20gを水240ccで半量になるまで

                    煎じ、一日3回にわけて服用します。

                    神経の興奮を静め、不眠にもよく効き

                    ます。

成  分: サポニン、アルカロイド、ペクチン、ビタミンC、ビタミンA、鉄分、

      リン、カルシウム

         

 

 

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