ムラサキ

 裏門から入って直ぐの所で、ムラサキの花が、開花しています。名前はムラサキですが、白く小さい花なのであまり目立たず、気付かれないかもしれません。

 ムラサキLithospermum erythrorhizon は、日本各地から朝鮮半島、中国に分布す多年草です。野山に自生する植物ですが、現在では自生はほとんど見られず、絶滅危惧ⅠB類に指定されています。以前の職場、東邦大学の薬草園でも、N大学から「これが在来種のムラサキ」と云われて分けていただき栽培していると、別の大学の先生からは「いやこれはセイヨウムラサキである」と指摘されたこともあり、判断は難しい植物でした。

 当園にあるのは、左の花色がややクリーム色であることからセイヨウムラサキです。右は在来種のムラサキです。こうして並べてみると違いがよく分かります。 

花色に違いはありますがセイヨウムラサキモもムラサキと同じように薬用として用いられています。

 

 薬用としては、ムラサキの根を乾燥させた生薬 紫根(しこん)を用います。

写真は「茜さす・・」が詠まれた蒲生野(現・東近江市)で、市花として栽培保全活動をしていらっしゃる滋賀県東近江市のムラサキの掘りあげた根です。

 

 紫根には 抗炎症、肉芽促進作用等の創傷治癒、促進作用があります。近年では抗腫瘍作用が注目され、白血病や乳がんなどへの研究もされています。

 

漢方薬というと煎じ薬だけではなく外用薬の軟膏もあります。その中でも、切り傷や皮膚疾患にと広く用いられる外用薬に、「紫雲膏(うんこう)」があります。

 

「紫雲膏」は、中国 明の時代の医師 陳実功が紫根、当帰、黄蝋、ごま油で創った「潤肌膏」に、江戸時代の医師 華岡清州が、豚脂を加えて作った日本生まれの漢方の軟膏です。解熱、殺菌、消炎作用のある紫根と血行促進、潤肌作用のある当帰(とうき)にごま油、蜜蝋、豚脂を合わせて作る軟膏で、痔、傷口の治りには効果があります。火傷の場合は跡が残らないといわれています。 

  ムラサキは、古い時代から薬用、染色に用いられて来た植物です。同じように生薬になるベニバナ、アイと共に、日本三大色素とされています。 

 

 万葉集でも額田王(ぬかだのおおきみ)の歌「茜さす紫野行き標野行き 野守はみずや君が袖振る」はよく知られています。

<標野行き>とは、標(しめ)で囲った場所を示し、皇室や貴人の所有地で一般の者の立ち入りを禁止した場所であったのです。此処で詠まれているのは、天智天皇の御料地を云います。この歌は、御料地での薬狩りのとき、かって恋人であった大海人皇子(後の天武天皇)に当てて詠んだもので、教科書にも載っているので、よく知られています。

<薬狩り>とは陰暦五月五日に、山野に出て紫草(ムラサキ)や鹿茸(生薬のろくじょう・効能は強精、強壮、鎮痛作用)を採取する宮中の行事のことです。

 

603年に定められた冠位十二階(かんいじゅうにかい)は、役人の位を12に分けて、それを紫、青、赤、黄色、白、黒の色の6色に分け、更にその色の濃い薄いで冠に色をつけて位を表した制度です。万葉の時代にはどこにでも見られた植物だったのでしょう。最高位の紫を紫根染めにするために、紫草は貴重だったので宮中を挙げて<薬狩り>をしたと思われます。                              

 

 905年に著された『古今集』には、「紫のひともとゆえに 武蔵野の 草は見ながらあはれとぞみゆ」の一首があります。その頃には、ムラサキが、武蔵野や北海道から九州まで日本全土の日の当たる草原に普通に自生していた様子がうかがえます。故東邦大学 生薬学 幾瀬マサ教授の遺稿によると、和40年頃迄は八千代市大和田辺りでも見られたそうです。

現在は激減しレッドデータでは絶滅危惧種IB類になっています。

 

現在では医薬品に使用される紫根は、中国、韓国からの輸入品です。国内での生産は、染料に使われるものとして僅かに栽培されているに過ぎません。

 

  数年前、「魔女達の22時」というTV番組で、エイジングケアの化粧水として紫根エキスがよいと紹介され話題になったことがありました。市販の紫根エキスを希釈して使用するそうです。 

毎年、夏の日焼けには悩まされる私ですから、一度試してみようかしら・・・・・

学  名:ムラサキ:Lithospermum erythrorhizon
    セイヨウムラサキ:Lithospermum officinale
科  名:ムラサキ科
生 薬 名:紫紺(しこん)
利用部位:根⇒10月頃根を採って、日干しにします。土が乾いたら、たたき落とす

       ようにし、水洗いはしません。
薬     効:解熱、殺菌、消炎作用があり、解毒、抗炎症薬として腫瘍、火傷、

     凍傷、湿疹などに外用します。
使 用 法:軟膏「紫雲膏」に⇒皮膚を滑らかにし、腫れ物の排膿、火傷、痔疾、

              皮膚の荒れ止めに。   
成    分:根に紫色色素のナフトキノン誘導体のアセチルシコニン、シコニンなど。

 

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